賢いお産〜エビデンス(科学的根拠)の重要性〜コクラン・レビューがカギ

数年前に、たまたま友人から譲り受けた「Trick or Treatment」を、今さらですが、読み始めました。この本は、いわゆる代替医療、つまり、鍼灸、ホメオパシー、カイロプラクティック、漢方薬などの植物薬など、西洋医学以外の治療法について、その効果と安全性をエビデンスを元に書かれれています。

これを読み始めて、何でもかんでも「自然志向」というのもリスクがあるのだなぁ、と気づかされています。代替医療の方が果たして西洋医学よりも効果があり、しかも(これが大事ですが)安全なのかどうか、ということは、じっくりと見極める必要があると思います。つまり、エビデンス(科学的根拠)に基づいているかどうかを確認することが重要です。本の中には、代替医療の死につながるリスクについても触れられているので、「自然だから安全」という考えはなくなりました。かなり大雑把にまとめてしまうと、エビデンスに基づいて効果があるとされる代替医療は少なく、逆に、危険な状況に陥ることも多いということです。

ドゥーラの観点から、この本を出産に関連づけて少し考えてみました。もちろん、ノーマルな妊娠/出産に関しては、当然病気ではないわけですから、深刻な病気と比べると、ノーマルな出産に対する私が知っている一般的な代替医療の安全性への危惧はほとんどなくなるでしょう(効果があるかどうかは別です)。

また、ノーマルな出産において西洋医学の医療介入をすれば、当然、自然に身をまかせていれば生じなかった副作用が生じるわけですから、代替医療が、例えプラシーボ効果であったとしても、西洋医学に頼る前に試しておきたい、という人もあるでしょう。もちろん、もしプラシーボ効果だと分かっていたら、する人はいないとも思いますが...。

プラシーボ効果は、ウィキペディアには、「偽薬効果」とありますが、「思い込み効果」とすると、私はしっくりくるのですが、どうでしょうか? つまり、実はエビデンスとして何の効果もないけれど、効くと思い込んでいると効果が出ることもある、ということですよね。思い込みで良くなるならいいじゃないか、という意見もあるかもしれませんが、ただし、注意しなくてはいけないのは、例えば、深刻な病気の場合に、エビデンスがないのに代替医療が効くと信じて、エビデンスに基づく西洋医学の治療をやめてしまったとしたら...というようなことに、この本は警鐘を鳴らしています。

コクラン・レビューでは、西洋医学はもちろん、代替医療についても、エビデンスに基づいた研究のレビューをしています。"Pregnancy & Childbirth"(妊娠と出産)の項目には、本日現在、429件ものレビューが掲載されています。

西洋医学に関しての例としては、

2011年10月のレビューで、多くの病院で陣痛短縮のためにルーチン化されている人口破水についての次の記述があります。

"The evidence showed no shortening of the length of first stage of labour and a possible increase in caesarean section. Routine amniotomy is not recommended for normally progressing labours or in labours which have become prolonged."

和訳すると、「(人口破水は)陣痛初期の長さを短縮せず、帝王切開の可能性を高めるため、ルーチン化された人口破水は、ノーマルなお産にも、長引いているお産にも薦められない」とあります。

そして、代替医療の例としては、

2011年11月のリラクゼーションの陣痛に対する和痛効果については、以下のような記述があります。

"The review of eleven randomised controlled trials, with data reported on 1374 women, found that relaxation techniques and yoga may help manage labour pain. However, in these trials there were variations in how these techniques were applied in the trials. Single or limited number of trials reported less intense pain, increased satisfaction with pain relief, increased satisfaction with childbirth and lower rates of assisted vaginal delivery. More research is needed."

和訳すると、「このレビューでは、11のランダム化比較実験(合計1374人の女性のデータ)を対象とし、リラクゼーションやヨガは、和痛に役立つ可能性があると認めた。ただし、これらの実験におけるリラクゼーションやヨガの手法の適用の仕方には差異がある。一つ、あるいは限られた数の実験においては、激痛が減り、和痛効果への満足度が高まり、出産に対する満足度が高まり、介助分娩の確率が減った。さらなる研究が求められる。」

ここでは「さらなる研究が必要」とありますが、確かに、代替医療に関しては「十分なエビデンスがないため、さらなる研究が必要」というものが多いです。つまり、しっかりとした研究があまり存在しない、ということですよね。この辺りをどうとるかは人それぞれかもしれませんが、あくまでノーマルな出産に関しては、西洋医学の医療介入による副作用を回避するために何でも試してみたい、という人は多いのだろうと思います。

いずれにしても、エビデンスに基づいた意思決定をする際に、コクラン・レビューは非常に効果的な出発点となると思います。

ここら辺のところ(キーワードは、妊娠/出産/エビデンスに基づく意思決定/西洋医学/代替医療)、あくまで冷静に(つまり、自然志向の強い人が多いドゥーラ社会側にも寄りすぎず、医療者側にも寄りすぎず、中立的に)、何を選択して、何を選択しないのか、という判断にとても重要だと思われます。もっといろいろ読み進めて、少しずつでもまとめていけたらなぁ、最終的には本(翻訳ではなくて)につながればいいなぁ、などと妄想していますが、さてどうなりますか。

実は、こんなことを考えている背景には、「エビデンス」と口では言いながら(つまり影響力を与えようとしながら)、実はエビデンスに基づいていないことを言う人が、どちらの世界にも結構いるものなのだな、と感じていることもあります。これは、もちろん、自分への戒めも含めてのことです。やはり、学んだことを鵜呑みにしたり、他の視点を持たなかったり、新しい情報を入手しなかったり、というのは、医療者にせよ、ドゥーラにせよ、あるいは他の職業にせよ、ありがちなことだろうと思います。もちろん、自分も含めてです。こんな風に考えるのも、科学者の妻を長年しているということも、影響しているかもしれませんね...。

とにかく少しずつ進めて行ければと思っています。誰か、同じようなことを考えている人、賛同して頂けそうな方をご存知でしたら、ぜひご紹介ください!